昨年のPYC News (7)でどうしてリスニングセラピーが気になっているか書きました。
PYC News[7](October2015) 「リスニングセラピー中間報告」
リスニングセラピーについてご紹介したのはいつのことだったか?確認してみたら、なんと4月!あれからもう半年も経ってしまったとは。カレンダーの進む速さに全くついていけないでいることがわかり愕然としています。リスニングセラピーについて経過報告します。
何回かこのニューズレターでも触れているNorman Doidgeの本 The Brain's Way of Healing(2015)では、フランス人トマティスが発見、開発した方法とその継承者による治療があげた効果やそのエビデンスが書かれています。自閉症、ADHD、ADDがすっかり治り、社会的にも自己実現としても寛解の例(5-15年後の検証あり)、セラピー後の大幅な改善報告とフォローアップ中(1年〜3ヶ月に1回)の例、フォローアップは終了し寛解とはいかないものの社会的適応が大きく改善した例が報告されています。
これまで脳の上部にある前頭葉によって人が目標を立て、課題に意識や注意を向け続け、より抽象的な思考を行うと長いこと考えられてきました。この根拠の一つとされているのがADHDの人の前頭葉が比較的小さいという研究です。しかし最新の脳画像研究からADHDの人の小脳は症状が悪化すると小さくなり、改善すると大きくなるということがわかりました。小脳は、思考、動き、バランスのタイミングを調整する働きをします。そして小脳は前庭系(身体の方向、バランスなどの知覚を司る)とつながっているのです。
近年のエビデンスとしてfMRIを使った2005年の研究(Vinod MenonとDaniel Levintinが一例として挙げられています。(以下The Brain's Way of Healing からの引用)
音のセラピーで使われる音楽は、(何かを達成する時に得られる喜びの感情を与えてくれる)プラスの報酬を処理する脳の領域(いわゆる「報酬系」)と、注意を払うことに関わる大脳皮質とのつながりを目覚めさせ、強めることが証明された。
前庭系を音楽と動きのセラピーで刺激することで、前庭系が別の大脳皮質の領域である、大脳基底核へ信号を送るが、ここが注意を司る回路の一部でもある。ADHDの人は大脳基底核が小さいが、通常大脳基底核は、メインとなる課題と関係ないことをするのを妨げることで集中を保つ役割を果たす。ひとつのことに注意を向けるには他のことに気をとられそうになる誘惑を抑えることが必要である。また大脳基底核がうまく機能していない時、人はよく見ないで動く傾向がある。つまりはこれが衝動性や注意散漫として現れる。
他にも網様体賦活系、迷走神経/副交感神経がどのように音、耳からの刺激でどう影響を受け特に大脳皮質領域を変えていくか、エビデンスが出てきていることが紹介されています。
このリスニングセラピーはトマティス(本人は亡くなり息子や継承者がヨーロッパ中心に世界にセンターを作っています。日本でも実践できる資格者が複数存在)の流れを組む少なくとも他2つのやり方へ分派しています。
カナダ、トロントのポール・マドゥール。この人自身が書字読字障害でトマティスが直接治療。独自の発展をさせています。この手法の資格をもつ人は日本に1人、千葉にしかいません。ポールによるリスニングセラピーがどう効果を発したか自伝+研究書があり、日本語訳(自費出版?冊子)があり手に入ります。
アメリカのロン・ミンソン。娘がADHDで、トマティスの手法を親子で体験し劇的に改善、もともと精神科医でトマティスの元で研究後、独自の身体のバランスをとるなどの運動とリスニングセラピーを組み合わせた手法を開発しています。科学的な効果の裏付けがきちんと行われつつあるのがこの人のやり方で、ADHDの50%が治った、という研究データが出ています。ipodを使った本体やこどもがこわせないヘッドホンなど工夫や進化が見えます。
さて私はというと、トマティスを体験終了間近です。
******とここまでが昨年のNewsletterでした。さて、苦心しつつトマティスを一通りやり終えた私でしたが、その効果はいかに?プログラム終了後の聴覚チェックでは変化はあれども改善自体はあまり見えませんでした。数ヶ月後の再チェックを提案されていたのですが、未だ行けていません。母音の日本語っぽいアクセントが改善しないかな、英語を聞いていて選択的注意が改善しないかな、と夢見ておりました。後者、日本語やいろいろな音が混じって聞こえる環境で英語だけを聞き取るのが難しかったのですが、春の海外渡航時、「あれ、もしかして」ちょっと楽だったかも。。。
という程度です。それでも!RDIを続けているお子さんの中にも、このリスニングセラピーの中で特にIntegrated Listening Systemsを試してみてほしいなあと考えています。オンラインでトレーニングを受けられるので、ついにこの夏にやってみようかなと計画中です。6月30日紀伊国屋から The Brain's Way of Healingの日本語訳が出版されています。邦名は「脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線」ノーマン・ドイジです。ぜひ読んでみてください。脳の可塑性の研究が進み、いろいろな可能性のある治療法をやってみたくなりますよ〜。