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ADHDは優れた特性なのです

ADHDの優れたところに関する記事、前もどこかで読みました。その時ブログにできなかったので今度こそ!訳します。

 

「ADHDの創造力」

ある「障害」の優れた側面に関する、より詳細な研究

ホリー・ホワイト

Scientific American 

The Creativity of ADHD : More insights on a positive side of a “disorder”

by Holly White on March 5, 2019

 

ADHD, 注意欠陥多動性障害について説明を読むと、目につく問題を挙げるのが典型です。脳神経の不全で、気が散りやすい、衝動性が高い、過活動である、などが目立つ特徴として、子供から大人になっても見られる、などよく知られています。確かにADHDは学業、職場や社会的な人間関係に否定的な影響を与えるかもしれません。

 

しかしADHDには優れた特徴もあるのです。それは人より創造力に富む思考ができることです。創造力の高い認知の3つの特徴として発散的思考 divergent thinking, 概念拡張 conceptual expansion, 既知制限の克服 overcoming knowledge constraintsがあります。発散的思考 Divergent thinking は、柔らかくいうと、たった1点から数多くの考えを生み出すことができる力です。従来の研究ではADHDを抱える人は、明らかに発散的思考が必要な課題に優れた力を発揮し、身の回りにあるものに創造的な新しい使い方を見つけたり携帯電話を革新的なものにする新しい特徴を思いついたりするのです。新しい研究ではADHDの大学生は非ADHDの大学生より、概念を拡張し、既存の枠を打ち破る能力でより高い数値を示しています。これら新旧の研究からADHDと3つの創造的な認知力トリオがつながるのです。

 

過去の知識は創造力を邪魔することがあります。一つ前のモデルや前にワクワクした例に目を向けてしまうと、実際行き詰ってしまうことがあるのです。デザイナーなどがよくこれをfixation 固着と呼びます。

 

創造力に関する世代間研究では、何か新しいもの、例えばおもちゃを発明する課題を与える時、課題の前に例を出すと、その結果には与えられた例の要素が一部取り込まれている傾向がありました。つまりより革新的ではないものになってしまうのです。かくして、最近提示された情報を乗り越えることが創造的思考に欠かせないものとなります。

 

同様に、周囲の世界に関する知識が実在とは異なるものを想像するのを妨げることもあります。たとえば、別の惑星にある果物や動物を想像してください、と指示されると、たいていの人は地球に今ある果物や動物をまず思い浮かべて、それを修正して宇宙人バージョンにしようとします。研究でも、特定の現存する地球上のものを例としてあげた場合の想像は、例を与えられていない想像に比べて、独創性に劣ることが報告されています。このような状況で創造力をより発揮するポイントは、概念拡散、あるいは概念の枠組みを緩めて考える能力です。

 

たとえば、クリップは紙を綴じるためにデザインされています。概念拡散によると、この定義を超えて考え、クリップを何か別のものと想像します。腕時計のバッテリーの蓋を開ける道具として、などです。宇宙動物を創造するのに、一般に動物は左右シンメトリーでなければならないと考えがちで、それはたいていの地球上の動物がその左右対象、シンメトリーの属性を持つからです。概念拡散により、地球の典型的な動物とは異なる、非左右対象、アシンメトリーな形の動物が想像できるかもしれません。

 

エビデンスによりADHDのおかげで既存の知識の制限から免れることができることがわかっています。思春期の子供の研究で、ADHDのグループと非ADHDのグループでおもちゃの発明の課題を与えたものがあります。最初、参加者は一定の特徴があるおもちゃの例、たとえばボールなど、を幾つか提示され、その次の既に存在するおもちゃとは大きく異なるおもちゃを考えるよう、指示されます。

 

ADHDグループが発明したおもちゃは非ADHDグループの発明より課題の例に含まれている要素が少なかったのです。同じ研究で、概念拡散の課題について、2つのグループに違いはありませんでした。

 

しかし大学生のグループについては非ADHDグループに比べADHDグループの学生は意味活性化の範囲、つまり記憶されている概念や考えの活性化の範囲が広く、他の研究における概念拡散との相関関係が証明されています。ADHDとより高度な発散的思考と課題例の知識拘束を克服する能力を結びつけるエビデンスを考えると、ADHDと創造的思考の第三の要素、概念拡散について思わず調べたくなります。

 

私は大学生のADHD, 非ADHDグループを二つの課題で比較しました。一つ目では、参加者に自分たちが広告会社で働いていると創造し、3つのカテゴリ(パスタ、核エレメント、鎮痛剤)の新しい製品名を考えるよう指示しました。それぞれのカテゴリで単語の末尾が同じ6つの例を出しました。たとえば鎮痛剤なら-ol で終わる Midol, Tylenol, Panadolなどです。それから例に関係する要素を使わないで新しい製品名を考案するよう伝えました。それから概念拡散を調べるために、地球と大きく異なる惑星にある果物の絵を描いて説明するように指示しました。その想像の条件はできるだけ想像的で、地球に現存する果物の特徴と重ならないことでした。

 

予想通り、ADHDの学生は非ADHDの学生に比べ、製品名発明の課題で例に拘束されることがより少なく、語尾の例を含めることが少ないけれど、その製品カテゴリについて同程度の描写ができていました。宇宙果物の課題でも、より独創性が高く、地球の果物の特徴を含むことが少ないものがADHDグループからは生まれました。 典型的な果物の特徴である、種や柄はどちらのグループにも同じくらい含まれていましたが、ADHDの学生のアイディアにはアンテナ、舌、ストロー、ハンマーなど非典型的な特徴が入っていました。またADHDの学生の回答は、よりレベルの高い概念拡張を示し、たとえば果物を毒入りにするとか非道具のような非生物的な要素を加えることなどが行われていたのです。このような結果は非 ADHDの層で天才とされる人々にも報告されているのです。

 

一見、人と沿うことの難しさや概念拡張はあまり魅力的な特徴ではないかもしれません。しかし、創造的な革新を思うとき、小さな変化が思わぬ大発展の鍵となることもあるのです。縫い針を例にとって考えましょう。針の基本的なデザイン(縫う道具、骨の丸い端に穴がある)は少なくとも5万年前のデニソワ人の祖先に遡ります。そして1800年代初期バルササル・クレムズがそのデザインをひっくり返し世界で一番最初の先の尖った針を作ったのです。それがミシン発明につながりました。

 

ADHDはその人にとって集中や注意の維持が必要な、学校など、じっと座って注意を払う多くの場面で困難な問題を生むかもしれません。けれど一方で、同じ気の逸れやすさや混沌とした頭の中が、創造的で独創的な思考を考えた時には非常な強みを与えることになるのです。この新しい研究により、過去のモデルや慣習にとらわれずに創造的に、新しいものを生み出すことが目標である時にADHDが特に有益なものであることがわかりました。ADHDの人が持つ、革新的な、その人独自の思考スタイルは、その優位性が生きる革新的な分野に最高の適性となる可能性があるのです。

 

著者について

ホリー・ホワイトHolly White

 

ミシガン大学アナーバー校心理学科研究者。研究トピックは創造的認知、発散的「箱の外側」的な思考、神経多様性、認知エクササイズ